阿部・中川(貴)研究室 平成20年度卒業研究テーマ

フェライトめっき膜を用いた超高周波電子デバイスの開発
六方晶フェライトを用いたGHz帯域電子デバイスの開発
磁性ナノビーズを用いたガンの新規イメージング診断技術の開発
磁性ナノビーズを用いた抗ガンハイパーサーミア治療技術の確立
磁性ナノビーズを用いた抗ガン薬剤の磁気輸送
創薬を目指したバイオ物質認識用磁性ナノ粒子の開発

医療,診断,生活環境保全など,
私たちの身近な暮らしに直結する技術として

フェライトの特性を活用する研究
を行います.

電磁波環境対策のためのフェライトの開発

最近のGHz帯の電波の利用状況
用途 携帯電話 CPUクロック数 PHS 無線ラン
Bluetooth
NTT中継回路 室内無線ラン ETC 衛星放送
周波数
GHz
0.7 / 0.8 / 1.5 / 2.0 〜 5 1.9 2.4 3.6-4.3 5.2-5.8 5.8 11.5-12.7

私たちの身の回りには,不要なGHz領域の電磁波があふれています.

スピネルフェライト
の結晶構造
六方晶Z型フェライト
の結晶構造

医療・診断に用いるフェライトナノ粒子の開発

 不要な電磁波を抑える方法は2つあります.
 一つは,飛び交っている電磁波を吸収してしまう方法です.左の図に示すスピネルフェライトは,数kHz〜数十MHzの領域の電磁波をよく吸収する材料としてこれまで広く用いられてきました.しかし,普通はGHzの領域の電磁波を吸収することはできません.GHz領域の電磁波を吸収させるには大きな磁気異方性が必要となります.六方晶のフェライトはz軸方向に非常に長い結晶構造をもつため,磁気異方性も非常に大きくなります.六方晶の中でも,Z型と呼ばれる結晶構造を持つフェライト(右の図)は,数百MHz〜数GHzの電磁波をよく吸収する性質があります.Z型フェライトを回転磁場中で成形すると,この性質を大きく向上させることができます.
 様々な電子デバイスや建築材料としての応用を見据えた六方晶フェライトの研究を進めます.
 もう一つの方法は,不要な電磁波の発生を抑制する方法です.スピネルフェライトも工夫をすればGHz領域の電磁波を吸収させることができるようになります.その工夫とは薄い膜状にすることです.当研究室で開発されたスピンスプレーめっき法を用いると,ポリマー,ガラス,金属などに直接スピネルフェライト膜を堆積することができます.電子デバイスや基板にもフェライトをめっきすることが可能です.このように電磁波の発生源をフェライト膜で覆うことで,不要な電磁波の発生を抑えることができます.
 また,膜状であることは,小型デバイスに応用するのに非常に好都合です.この技術を活用し,GHz帯域のみならず,より広帯域の応用を目指して様々な膜状フェライトの開発を進めます.

スピンスプレーめっき法

こちらの研究紹介もご覧下さい.

磁気ハイパーサーミア
薬剤磁気輸送
MRイメージング

回転板上に,フェライトを
めっきしたい材料(青い
部分)を固定し,フェライト
の原料となるイオン溶液
と酸化剤をスプレーして,
μメートルオーダーの膜
で覆います.

 ガン治療において,最も重要で効果的なのは,ガンを早期に発見することです.MRI(磁気共鳴画像診断)は脳の微小な組織などをはじめ,全身の微細な画像を映し出すことが可能で,ガンの早期発見に大きく寄与している技術です.
 MRIでは,腫瘍などの異常部位をより明確に映し出すために造影剤を用いることがあります.フェライト微粒子も肝臓造影用のMRI造影剤としてすでに実用化されています.当研究室では,肝臓以外の臓器にも使用できるフェライト造影剤を開発します.また,単に造影効果があるだけでなく,薬剤輸送や磁気ハイパーサーミアも同時に行えるような機能性の付与を検討しています.
 また,超音波診断に効果的なフェライト粒子の開発も行っております.
日本人の死亡原因のおよそ1/3は悪性新生物、つまり、ガンです。年次統計をみると、死因にしめる癌の割合は一貫して上昇してきています。
 ガンの治療には、大きな苦痛が伴います。たとえば、患部の切除手術による激しい体力の消耗や、抗ガン剤による副作用などが挙げられます。当研究室では、できるだけ患者さんへの負荷の低いガン治療法を確立するために、フェライト微粒子を応用することを考えています。
 通常細胞は45℃で機能を失うのに対し,ガン細胞は43℃で死ぬことがわかっております.この温度差を利用してガン細胞を死滅させるハイパーサーミアという治療法があります.左図のように,フェライトは,交流磁界中におくと発熱する特性があります.フェライト粒子の表面にガン細胞だけにくっつく分子を結合させておけば,ガン細胞のみを加熱することができます.この治療法を磁気ハイパーサーミアと呼びます.卒業研究では,磁気ハイパーサーミアに最適な粒子を開発します.
 また,フェライト微粒子に抗ガン剤を付与し,磁場によって患部へ薬を輸送するための粒子の開発も行います.抗ガン剤はガン患部のみならず,正常臓器へも作用するために副作用が発生します.この方法ならば,薬剤をガン患部に集中させることができ,抗ガン剤による副作用を大きく低減させることができます.

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 一卵性の兄弟でない限り,全く同じ遺伝子を持っている人はいません.ですので,私たち一人一人は,かかりやすい病気も違えば,効きやすい薬も異なると言えます.
 個人個人の遺伝子に合った効果的な病気の治療をテーラーメイド医療といいます.テーラーメイド医療を実現するには,膨大な遺伝子ライブラリーと個々の遺伝子に効果的な薬の開発が必要です.このライブラリーの構築と新薬の創成に適したフェライト微粒子の開発を行います.
 フェライト微粒子の表面には様々な生活性物質(遺伝子,抗原・抗体,タンパク質など)を結合させることができます.フェライトは磁石で集めることができるので,その表面に修飾した生活性物質と反応する物質のみを簡単に磁気分離することができます.回収した物質を分析すれば,新薬創成の手がかりを得ることができます.
 磁石で簡単に回収できるということは,簡単な装置で一連の実験操作の自動化が可能で,システマティックに研究を進めることができます.
フェライト粒子による特定生体分子の磁気分離・分析