FAQ よくある質問とその回答集
電子ビーム露光の一般的な制約
Q:電子ビーム露光装置で露光できる試料の制約は?
A:電子ビーム露光法では、3つの条件から制約を受けます。レジストの塗布、試料ホルダーによる制約、導電性です。
まず、初めの二つは、通常用いられる半導体ウェハが1mm以下の薄い平板試料であることからくる限界です
電子が当たると化学反応して性質が変わるレジストという膜を試料の上に塗ります。このレジストの膜厚は通常数十nmから数μm程度ですが、微細構造になれば通常よりうすくなります。このレジストを試料上に均一に塗布する為に、溶剤に溶かしたレジストを試料上に滴下した後、数千回転で回転させます。まず、この回転の為に、試料が薄く、ある程度薄い必要があります。
つぎに試料ホルダーによる制約です。試料ホルダーは、真空中に照射される電子ビームの真下の位置に試料を持ち込む為に使います。この試料ホルダーは、通常半導体ウェハまたはガラスマスクが入ることが想定されていることから数mmの厚さまでしか入りません。さらに、電子ビーム露光法の特性から、電子線が照射される位置はあまり大きく変えることができません。また基板サイズは2,3,4,6インチ径の丸いウェハ状か、20mmx20mm以下の不定形チップに限られます。
以上の2点から、平板の上への露光が原則となります。但し、小さいものなら工夫をすれば、入れられる可能性はあります。
最後に導電性による制約ですが、これは電子ビームを絶縁物に当てると電荷が帯電してしまい、ビームが不安定になることによります。帯電してビームが不安定な状況では、描画はできません。従って有る程度の導電性が必要です。これは加速電圧等にも依存する為、通常の走査型電子顕微鏡で像が見えた場合でも、50keVの加速電圧を持つ我々の電子ビーム露光装置では見えない場合が有ります。
なお、装置の汚染が心配されるような、高真空中で有機溶媒などを放出する試料の場合はお断りする場合があります。
Q;どんなレジストを用いていますか?
A:レジストには、ポジとネガがあります。ポジレジストは電子ビームが当たったところが化学反応に対して可溶になり、ネガレジストは電子ビームが当たったところが化学反応に対して不可溶になります。描く形状によって両者を使い分ける必要があります。
我々が現在用いているポジレジストは、PMMA、ZEP-520とFEP-171です。PMMAとZEP-520は比較的高解像度であり、数十nmでの構造形成が可能です。PMMAの方が塗布は容易ですが、エッチング耐性が弱く、必要ドーズ量も若干大きくなります。必要条件/必要なエッチング耐性などに応じて、フラーレンを混合したり、PMMAとZEP-520を併せた多層レジストを使ったりもします。FEP-171は、化学増幅レジストなので、電子線レジストとしては必要ドーズが低いのですが、解像度は100nm程度とあまりよくありません。
我々が現在用いているネガレジストは、カリックスアレーンとSAL601,NEB-22です。カリックスアレーンは、非常に高解像度ですが、必要ドーズ量が大きくなります。SAL601,NEB-22は、化学増幅レジストなので、FEP-171と同じ傾向にあります。
Q:露光できる面積は?
A:これはビームの電流量とレジストの必要ドーズ量で決まります。
例えば我々が一番細いパターンを描くときに使う100pAのビームで、カリックスアレーンのような数十mC/cm2のドーズ量を要求するレジストへ描いた場合、24時間露光しても一辺が200μmの正方形を塗りつぶせません。ここで問題になるのは内規で定めた1露光当たりの装置占有時間は8時間を超えないことという制約であり、試料搬入、光学合わせも考慮すると一回の露光は数時間以下にして頂かなければなりません。
一方、それほどビームが太らない2nAのビームで、SAL601,NEB-22の様な100μC/cm2程度以下で露光できる化学増幅型レジストへ描いた場合、1時間以下で2mm角の正方形が描けます。
なお、必要ドーズ量は基板・現像条件等で変わります。一般的には高解像度には高ドーズ量が向いており、我々は解像度優先で仕事をしてきた為、比較的必要ドーズ量は高めで仕事をする傾向があります。
Q:転写の方法は?
A:レジストは、それほど安定な物質でないことから、リフトオフ法やエッチングで半導体パターンや金属パターンに転写する必要があります。
リフトオフは、レジストパターン形成後、金属を真空中で蒸着し、その後レジストパターンを溶液で溶かすものです。レジストパターンを取り除いた部分のみに金属パターンが形成されます。
エッチングは、レジストパターンのエッチング耐性があれば有効です。ただし、通常の電子ビームレジストはあまりエッチング耐性がよくありません。エッチングする材料によっては一回SiO2等の別の薄膜にエッチング転写してからエッチングを行う必要があります。
Q:転写に利用する装置の試料制約は?
A:リフトオフに用いる我々の蒸着器はそれほど大きなサイズの試料は入りません。通常はチップ形状のみとお考えください。
ドライエッチングによる転写やプラズマCVDによるSiO2膜形成は最大の8インチウェハ程度まで可能なので、露光装置の6インチの制限の方が厳しくなります。
Q:光露光との多重露光は可能ですが?
A:我々の持つ電子ビーム露光装置は、細い電子線に特化させていますので、電極パッドなどの大きなパターンを描くには向いていません。別に光露光マスクを用意して別のプロセスで描くことをお薦めします。
ただし、プロセス数を減らす為に大学でよく使われているコンタクト露光によるパターンを位置合わせマークに使うことは相当な誤差が発生し得ますので、お薦めできません。
我々の電子ビーム露光装置のスペックに関して
Q:装置名を教えてください。
A:日本電子製のJBX-6000FS とJBX-5FEおよびクレステック製CABL-9000TFTです。基本的にはほぼ同じ性能を持っています。則ち加速電圧は50kVで、電子銃エミッタは:ZrO/W(Schottkey)(よくTFEと言われていますが、構造はおなじものです。但し通常の電子ビーム露光ではショットキーモードで動かします。)電子ビーム径:5nm〜200nmです。
Q: ベクタースキャンですか? ラスタースキャンですか?
A:ベクタースキャンです。[ラスタースキャンは、電子銃が全領域をなぞり、電子ビームのON/OFFで図形を描画します。ベクタースキャン方式は、電子銃を任意の位置に動かして描画します。]
Q:可変成形ビームですか? ポイントビームですか?
A;ポイントビームです。[可変成形ビームは、大面積の描画にはビームを矩型状などに成形して非常に速い描画が可能です。一方ポイントビームは、描画速度は遅いものの、描くビームの大きさはより細くなる利点を有しています。]
Q:加速電圧は25keVにできますか?
A:装置スペック上は50keVと25keVとの切り替えが可能なものの、電子光学系の合わせなどの問題から50keVのみで装置を使用しています。申し訳有りませんが、当面は50keVのみとお考えください。
Q:フィールドの大きさとつなぎ精度は?
A:日本電子製装置のフィールドの大きさは80μm□です。つなぎ精度は100nmということになっています。しかし、我々の量子細線レーザは1mm程度の長さに渡って周期50nmの構造を作り、その断面を観測した範囲では、つなぎの飛びを観測された例がありません。クレステック製装置のフィールドは現在500μm□標準で行っています。つなぎ精度は公称0.3μmですが、実測は数十nm程度です。
Q: 位置合わせ精度は?
A:位置合わせ精度は、高さの誤差やマークの精度などを含んでいる為、多重露光においてはどうしても悪くなりがちです。日本電子製装置の公称値は2σで40nmですが、実際の観測例では、構造などによっては100nmまで精度が落ちている例が観測されています。複雑な(マークが痛みやすい/段差ができやすい)多数回描画を行った場合には精度はその程度まで落ちるとお考えください。クレステック製装置では、反射電子像検出装置がないので、現在重ね合わせ露光の実績がありません。
Q: 位置合わせ精度は?
A:最も一般的なGDS-IIストリームフォーマットを始め、DXFフォーマット、JEOL01フォーマット、JEOL51フォーマットなどで受け付け可能です。ただし、フォーマット変換によってデータ量が極端に増えることもありますので、特に複雑なデータの場合は、データをお送り頂き、検証する必要があります。
申し込みに関わる事項
Q: 使用料は?
A:使用料は文部科学省からの指示で取ってはいけないことになっています。この3年間の実績でも使用料を頂いた例は一件もありません。無料です。ただし、高価な試料などが必要な場合は、現物での支給をお願いするかもしれません。
Q:電子ビーム露光に関係ない成膜・エッチング・試料観察だけの支援は可能でしょうか?
A:本支援事業は、民間企業がサービスを行っていない高度な支援を基本としておりますので、電子ビーム露光に関係ない場合は支援対象外となります。
Q:装置の操作は、どこまで申込者が可能でしょうか?
A:ナノ支援に用いている装置は、我々が研究に同時に使っている装置でもあり、またデリケートで高価な装置でもあるので、電子光学調整系等の装置操作に関しては研究支援者が基本的に操作いたします。(メインのJEOLの装置2台はナノ支援開始より前から我々が保有している装置です。)
ただし、レジスト塗布/現像などについて申込者側で用意でき、それを希望する場合は、なんら問題がありませんし、いままでにも実績が有ります。
操作の現場をみたい、細かい指示を与えたいという場合に、露光などに立ち会うことも、時間調整が必要なことを除けば、何ら問題がありません。
操作を覚えたいという方は、まずは年一回行っているスクールの方に申し込まれて、概要を掴むことをお薦めします。
Q:申し込み方法?
A:申し込みは、宮本恭幸宛に申込書をお送り頂ければ結構です。その後、覚書交換をもって、正式な支援開始と致します。支援は文部科学省の予算年度単位で行われることから、全ての支援はいったん3月で終了します。ただし、基本的には再度の覚書交換で自動継続します。
Q:支援申し込みで発生する義務は?
A:各年度終了後に文部科学省への報告の為の報告書を御提出頂くこと、本支援事業を用いた成果を用いる場合に謝辞などにその旨を明記していただくことが義務です。また東工大学内の研究者を共著にした場合の成果発表には、事前の報告が必要です。但し、報告書に関しては、知的所有権保護などの正当な理由がある場合、支援終了後1年間報告書の公開を猶予することができます。この場合には、公開の猶予が必要な理由を明記していただければ、当該年度修了後の支援実施報告書は、実施課題名、課題申請者、所属機関及び部署名のみで結構です。以上に関しては支援事業申し込み時の覚書交換においても確認させて頂きます。
Q:知的所有権は?
A:各支援事業における知的所有権は、申し込み利用者のものであると解釈しています。そこで、技術代行など我々の既存の技術で対応できるものに関しては、我々は一切知的所有権を主張しません。覚書交換で、利用者の知的所有権を確保することができます。
ただし、既存の技術のみでは対応不可能で、新たに有る程度の研究を行う必要があると考えられる共同研究の場合は、申込者と我々の双方が知的所有権を持つ形となります。
Q:秘密保守などは?
A:技術代行・共同研究では覚書交換により我々の側の秘密保持をお約束できます。教員以外である電子光学系技術支援者・技術支援補助員(大学院学生が主)についても、文部科学省ナノテクノロジー総合支援プロジェクトからの給与・謝金支給時に秘密保持の為の覚書を交わしております。
Q:東工大学内からも応募可能?
A:本事業は研究機関や研究分野を越えた横断的な研究活動を推進する為でありますが、量子ナノエレクトロニクス研究センターとしては、東工大他部局への支援に関しても前向きに考えています。ただし、全体の1/3程度以下にすべきとの支援グループ内規があることも申し添えます。なお量子ナノエレクトロニクス研究センター教員およびアドバイザーは事業当事者であり、支援先とは考えられいことから応募できません。