テラヘルツとは

 およそ100ギガヘルツから10テラヘルツの超高周波領域はテラヘルツ帯と呼ばれ、従来の光・電子デバイスは動作できなかったため開発がされてきませんでした。しかしながら、近年の精力的な研究開発によりテラヘルツ帯で動作するデバイスが徐々に産まれてきており、これらを用いた、超高速無線通信、イメージング、分光分析、物性・天文・生体などいろいろな分野にわたる計測などがデモンストレーションされ始めています。このように少しずつ現実味を帯びてきたテラヘルツアプリケーションですが、皆さんが日常的に意識せずに使うような存在となるにはまだまだ技術的に高い壁がいくつも存在します。本研究室では、それら障壁を打ち破り実際にテラヘルツアプリケーションを身近な存在にすべく、ナノ構造を用いることにより半導体の極限的な性能を引き出しテラヘルツで動作する電子デバイス、および、それらを用いたテラヘルツ大容量無線伝送やレーダーシステムの研究を行っています。

  • 共鳴トンネルダイオードを用いた高機能テラヘルツ発振器
  • 高周波・高出力極限の探求
  • テラヘルツアクティブメタマテリアル
  • 光技術による電子デバイスの制御
  • RTDのシリコン回路による制御
  • テラヘルツ応用(レーダー、大容量無線通信など)

研究簡易紹介

パンフレット

これまでの研究

共鳴トンネルダイオードを用いた高機能テラヘルツ発振器

高周波・高出力の極限、高機能アクティブメタマテリアル

 テラヘルツ帯は非常に高周波であるため、高い発振周波数を得るには“超速い”電子デバイスが必要です。半導体の量子構造を用いた共鳴トンネルダイオード(RTD)は、電流電圧特性に微分負性抵抗を持ち、電磁波を増幅・発振させることが可能で、これまでの研究により電子の遅延時間を極限的に減らすことによりテラヘルツ動作を実現しました。現在、我々のRTDデバイスはあらゆる電子デバイスの中で世界最高の約2THzの発振を達成しています。本研究室では、このRTDの可能性をさらに拡げるため、非線形性を利用した高調波発生による>2THzの信号発生や、ミリワット高出力発振、新たなメタマテリアル共振器との集積や、注入同期現象を用いた位相制御による出力合成・ビームフォーミングなどを現在研究しています。

 

光技術による電子デバイスの制御

 RTDは電子デバイスの高周波動作極限かつフォトニックデバイスの動作下限周波数に最も近いデバイスであり、近年では古典的な電気回路と電子走行によるデバイス物理とは異なるフォトニックデバイスの波動性に起因した特異な動作が見出されつつあります。そこでRTD内部に潜む電子の波動性から生まれる量子輸送や光学的遷移などによる新たな高周波利得、デバイスの集団的動作の定在波に対応した動作モード、面発光レーザーに用いられるような分布ブラッグ共振器との融合、レーザー的な電磁波のフィードバックによるコム状スペクトル発生など、各所に現れるフォトニックデバイスに類する波動的性質を解明し、その学理を構築すると共に、その性質を制御・顕在化させることで、単純な時間応答や回路だけで記述される古典的な電子デバイスから超越した動作を引き出すことを考えています。これにより、大規模アレイのコヒーレント結合、広帯域コム発生などの新たなデバイス動作を実現を目指しています。

 

RTDのシリコン回路による制御

 残念ながらRTDはダイオードであり、トランジスタとその回路に比べ機能性は低く、特に電磁波を制御するための低位相雑音化や位相制御を行うのは困難です。対して、シリコンCMOSでは大規模な回路が再現性良く作製でき、上記の低位相雑音特性や位相制御などを容易に行うことができますが、300 GHz以上の高周波数動作は困難です。そこで、RTDとCMOS回路をハイブリッド集積し、注入同期の技術をもってCMOS回路の低位相雑音特性をRTDへ転写し、位相制御も行うことで電磁波の精密制御を行い、制御されたテラヘルツ信号の放射を可能とする新たなデバイスを実現したいと考えています。

 

テラヘルツ大容量無線通信

 テラヘルツ帯は非常に単純なことですが周波数が高いことから帯域が大変広く確保することができ、この超広帯域を用いれば簡単な変調方式(例えば0と1のオンオフ)でも100Gbpsを超えるような無線通信が可能です。そこで開発したRTD発振器を送信器として利用したテラヘルツ無線通信を研究しています。特に、小型電子デバイスではまだ例の無い1THzを超えるキャリアを用いた無線通信は、テラヘルツの広大な帯域を開拓する上で非常に重要なマイルストーンとなっており、そのため、この高周波通信に現在チャレンジし、テラヘルツ無線通信の可能性を明らかにすることを目標に研究推進しています。

 

テラヘルツレーダー・3Dイメージング

 テラヘルツはプラスチック、紙、服などのソフトマテリアルを透過する性質を持ち、セキュリティや非破壊検査への利用が期待されています。さらに、テラヘルツを用いたレーダーは、近年研究開発が始まったところですが、ミリ波よりも波長が短く高分解能にでき、粉塵や雪などでライダーの光が散乱されてしまう状況下でも影響をあまり受けずに測定が可能というメリットがあります。そのため、我々の研究室では、RTD発振器の高速変調特性を利用し、新たに考案した振幅変調連続波方式(AMCW)やサブキャリアを用いた周波数変調連続波方式(FMCW)によるテラヘルツ距離測定システムを研究しています。現在までに数10~100マイクロメートルの分解能のレーダーや、横方向分解能500マイクロメートルの3Dイメージングを達成しています。