FAQ よくある質問とその回答集
電子ビーム露光の一般的な制約
Q:電子ビーム露光装置で露光できる試料の制約は?
A:電子ビーム露光法では、2つの条件から制約を受けます。レジストの塗布、試料ホルダーによる制約です。これは、通常用いられる半導体ウェハが1mm以下の薄い平板試料であることからくる限界です
電子が当たると化学反応して性質が変わるレジストという膜を試料の上に塗ります。このレジストの膜厚は通常数十nmから数μm程度ですが、微細構造になれば通常よりうすくなります。このレジストを試料上に均一に塗布する為に、溶剤に溶かしたレジストを試料上に滴下した後、数千回転で回転させます。まず、この回転の為に、試料がある程度薄い必要があります。(重いと真空チャックが耐えきれず飛んで、通常粉々になります。)
つぎに試料ホルダーによる制約です。試料ホルダーは、真空中に照射される電子ビームの真下の位置に試料を持ち込む為に使います。この試料ホルダーは、通常半導体ウェハまたはガラスマスクが入ることが想定されていることから数mmの厚さまでしか入りません。さらに、電子ビーム露光法の特性から、電子線が照射される位置はあまり大きく変えることができません。また基板サイズは2,3,4インチ径の丸いウェハ状か、20mmx20mm以下の不定形チップに限られます。(装置のスペック上は6インチまで入りますが、ホルダーを持っていません。)
以上の2点から、平板の上への露光が原則となります。但し、小さいものなら工夫をすれば、入れられる可能性はあります。
なお、装置の汚染が心配されるような、高真空中で有機溶媒などを放出する試料の場合はお断りする場合があります。
Q;どんなレジストを用いていますか?
A:レジストには、ポジとネガがあります。ポジレジストは電子ビームが当たったところが化学反応に対して可溶になり、ネガレジストは電子ビームが当たったところが化学反応に対して不可溶になります。描く形状によって両者を使い分ける必要があります。
我々が現在用いているポジレジストは、PMMA、ZEP-520等です。PMMAとZEP-520は比較的高解像度であり、数十nmでの構造形成が可能です。PMMAの方が塗布は容易ですが、エッチング耐性が弱く、必要ドーズ量も若干大きくなります。必要条件/必要なエッチング耐性などに応じて、フラーレンを混合したり、PMMAとZEP-520を併せた多層レジストを使ったりもします。 化学増幅レジストのFEP-171は以前は利用していましたが入手単位が大きすぎて必要頻度が低いことから、欠品にしています。
我々が現在用いているネガレジストは、HSQとma-N2400です。HSQは、非常に高解像度ですが、必要ドーズ量が大きくなります。ma-N2400は耐薬品性に優れています。
Q:露光できる面積は?
A:これはビームの電流量とレジストの必要ドーズ量で決まります。
例えば我々が一番細いパターンを描くときに使う100pAのビームで、高解像度レジストのような数十mC/cm2のドーズ量を要求するレジストへ描いた場合、24時間露光しても一辺が200μmの正方形を塗りつぶせません。ここで問題になるのは内規で定めた1露光当たりの装置占有時間は8時間を超えないことという制約であり、試料搬入、光学合わせも考慮すると一回の露光は数時間以下にして頂かなければなりません。
一方、それほどビームが太らない2nAのビームで、化学増幅レジストの様な100μC/cm2程度以下で露光できる化学増幅型レジストへ描いた場合、1時間以下で2mm角の正方形が描けます。 ただし、この場合は、装置のビームオンオフ時間の制限との兼ね合いもあり、あまり小さなパターンは描けなくなります。
また、ドットパターンなどを描く場合にはオーバーヘッド時間と言われる位置決めの時間が問題となります。4000万点描画するときに1時間という時間を目安にお考え下さい。
なお、必要ドーズ量は基板・現像条件等で変わります。一般的には高解像度には高ドーズ量が向いており、我々は解像度優先で仕事をしてきた為、比較的必要ドーズ量は高めで仕事をする傾向があります。
Q:転写の方法は?
A:レジストは、それほど安定な物質でないことから、リフトオフ法やエッチングで半導体パターンや金属パターンに転写する必要があります。
リフトオフは、レジストパターン形成後、金属を真空中で蒸着し、その後レジストパターンを溶液で溶かすものです。レジストパターンを取り除いた部分のみに金属パターンが形成されます。
エッチングは、レジストパターンのエッチング耐性があれば有効です。ただし、通常の電子ビームレジストはあまりエッチング耐性がよくありません。エッチングする材料によっては一回SiO2等の別の薄膜にエッチング転写してからエッチングを行う必要があります。
Q:転写に利用する装置の試料制約は?
A:リフトオフに用いる我々の蒸着器はそれほど大きなサイズの試料は入りません。通常はチップ形状のみとお考えください。
ドライエッチングによる転写やプラズマCVDによるSiO2膜形成は最大の6インチウェハ程度まで可能なので、露光装置の4インチの制限の方が厳しくなります。
Q:光露光との多重露光は可能ですが?
A:。我々の持つマスクレス装置で作ったパターンとの多重露光は実績があります。これは電子ビーム露光装置は、細い電子線に特化させていますので、電極パッドなどの大きなパターンを描くには向いていないこともあることから開発しました。
ただし、プロセス数を減らす為に大学でよく使われているコンタクト露光によるパターンを位置合わせマークに使うことは相当な誤差が発生する可能性もあり、我々のところではプロセス確認ができておりません。
我々の電子ビーム露光装置のスペックに関して
Q:装置名を教えてください。
A:日本電子製のJBX-8100 です。加速電圧は100kVで、電子銃エミッタは:ZrO/W(Schottkey)(よくTFEと言われていますが、構造はおなじものです。但し通常の電子ビーム露光ではショットキーモードで動かします。)電子ビーム径:5nm〜200nmです。
Q: ベクタースキャンですか? ラスタースキャンですか?
A:ベクタースキャンです。[ラスタースキャンは、電子銃が全領域をなぞり、電子ビームのON/OFFで図形を描画します。ベクタースキャン方式は、電子銃を任意の位置に動かして描画します。]
Q:可変成形ビームですか? ポイントビームですか?
A;ポイントビームです。[可変成形ビームは、大面積の描画にはビームを矩型状などに成形して非常に速い描画が可能です。ARIM事業では東大・京大が所有しています。一方ポイントビームは、描画速度は遅いものの、描くビームの大きさはより細くなる利点を有しています。]
Q:加速電圧は25keVや50kVにできますか?
A:装置スペック上は切り替えが可能なものの、電子光学系の合わせ/変更時の立ち上がり時間などの問題から100keVのみで装置を使用しています。申し訳有りませんが、当面は100keVのみとお考えください。
Q:つなぎ精度およびパターン重ね合わせ精度は?
A:仕様では標準偏差で、つなぎ精度20nm(フィールドサイズ1000um)、重ね合わせ精度9nm(フィールドサイズ100um)となっています。
Q: 入力ファイル形式は?
A:最も一般的なGDS-IIストリームフォーマットを始め、DXFフォーマット、JEOL01フォーマット、JEOL51フォーマットなどで受け付け可能です。ただし、フォーマット変換によってデータ量が極端に増えることもありますので、特に複雑なデータの場合は、データをお送り頂き、検証する必要があります。
申し込みに関わる事項
Q: 使用料は?
A:消耗品や装置メンテナンス費などから算出した利用料を頂きます。結晶成長時に必要なInP基板などについては、我々の購入価格分を利用料に足してお願いします。また、特殊な試料・高価な試料などが必要な場合は、現物での支給をお願いします。
Q:電子ビーム露光装置の操作は、どこまで申込者が可能でしょうか?
A:支援に用いている装置は、我々が研究に同時に使っている装置でもあり、またデリケートで高価な装置でもあるので、電子光学調整系等の装置操作に関しては研究支援者が基本的に操作いたします。
ただし、レジスト塗布/現像などについて申込者側で用意でき、それを希望する場合は、なんら問題がありませんし、いままでにも実績が有ります。
操作の現場をみたい、細かい指示を与えたいという場合に、露光などに立ち会うことも、時間調整が必要なことを除けば、何ら問題がありません。
操作を覚えたいという方は、まずは年一回行っているスクールの方に申し込まれて、概要を掴むことをお薦めします。
Q:申し込み方法?
A:まずは支援ができるかを確認するために、宮本恭幸宛に概要などをお教えください。アドバイザー選定などを含めて支援事業を計画いたします。また必要に応じて審査部門による採択審査をいたします。
支援事業が計画できた場合(継続利用の場合も含む)、その後は利用申請書をお送り頂き、正式な支援が開始できます。支援は文部科学省の予算年度単位で行われることから、全ての支援はいったん3月で終了します。
Q:支援申し込みで発生する義務は?
A:各年度終了後に文部科学省への報告の為の報告書を御提出頂くこと、本支援事業を用いた成果を用いる場合に謝辞などにその旨を明記していただくこと、利用料を支払うこと等が義務です。以上に関しては支援事業申し込み時の利用申請書中で確認させて頂きます。 また、知的所有権保護などによる公開猶予制度を東工大は実施しておりません。猶予が必要な場合は、公開義務が無く、維持費・人件費相当を負担する利用料を払う自主事業をご利用ください。
Q:データ提供とは?
A:データ提供は、今回のARIM事業が、従来の設備共用を継続するだけでなく、共用に伴って創出されるマテリアルデータを、利活用しやすい構造化された形で、収集・蓄積を行っていくことを目的としていることから始まりました。
マテリアル先端リサーチインフラでは、設備共用によって得られる高品質なデータを、利用者の許可を得たうえで収集し、データの中核拠点であるNIMSへ蓄積します。蓄積されたデータは、利用者ご自身のデータ整理や解析にご利用いただくとともに、グループ間で共有したり、広く公開・共有することで、データ活用型プロジェクトの推進に活かしてまいります。 
以上から、データ提供を前提として始まったAIRM事業ですが、データ提供は支援に伴う義務ではなく、装置一覧と料金表に書いてありますように、データ提供許諾をいただけけない場合は、クリーンルーム利用料以外について25%料金が割増となるという条件で支援が可能です。
Q:知的所有権は?
A:各支援事業における知的所有権は、申し込み利用者のものであると解釈しています。そこで、技術代行など我々の既存の技術で対応できるものに関しては、我々は一切知的所有権を主張しません。約款において、その旨説明してあります。
ただし、既存の技術のみでは対応不可能で、新たに有る程度の研究を行う必要があると考えられる共同研究の場合は、申込者と我々の双方が知的所有権を持つ形となります。
Q:秘密保守などは?
A:技術代行・共同研究では約款を了解いただくことや共同研究契約締結により我々の側の秘密保持をお約束できます。教員以外である電子光学系技術支援者・技術支援補助員(大学院学生が主)についても、本事業からの給与・謝金支給時に秘密保持を確認しております。
Q:東工大学内からも応募可能?
A:本事業は研究機関や研究分野を越えた横断的な研究活動を推進する為でありますが、東工大内への支援も可能です。