IWAMOTO LABORATORY

■研究内容と目指すもの

目標1 有機材料のフレキシブルな性質を、単分子膜レベル、薄膜レベルの観点から、特にナノ界面に発生する電子光現象と結び付けて解明するための評価技術を開発する。(マクスウェルの変位電流(MDC)・光第2次高調波(SHG)などを用いて、界面分子膜の配向状態を評価する手法を確立し、MDC-SHG スペクトロスコピーとしてこれを完成させる。)
目標2 柔構造を特徴とする有機分子膜の界面電子物性を評価する手法の開発と、分子レベルの有機単電子トンネル素子、単分子膜レベルでのダイオード素子、さらに薄膜レベルでの有機FETの作製を通じ、小型で軽量な新規情報通信機器用の素子開発を行う。
目標3 ナノ界面の分子膜構造が双極子エネルギーに強く依存することに着目し、界面の有機分子(液晶分子など)の挙動を理解するために必要なアンカリングエネルギーなどの諸量を工学的に評価する手法の開発する。さらに、これを新しい分子膜パターン描画技術へと高め、フォトニクスおよびエレクトロニクスとの接点技術にむすびつける。
目標4 有機FETに代表される有機電子デバイスの動作機構を、誘電分極現象の観点から明らかにする。これらの成果をもとにして、有機材料独自の性質を利用した電子デバイスの実現を目指す。

有機材料の持つ機械的なフレキシブル性に注目した研究が世界中で注目されています。電力ケーブルの絶縁・被覆材としての機能はもちろんですが、FETやELデバイスなどにもその波が押し寄せています。けれども、その設計思想は固体物理を背景とするものであり、フレキシブルな材料を扱う物理を背景とするものではありません。本研究では、有機分子の持つフレキシブル性と有機集合体(有機膜など)の持つ柔軟性を扱う物理を基礎として、分子レベルから膜レベルまでのナノ界面の特異性に着目した有機電子光デバイスに関する基礎と応用を目指しています。  有機分子を扱うためには、分極現象や双極子エネルギーに注目することがその基礎として大切です。本研究で開発したマクスウェルの変位電流(MDC)や光第2次高調波(SHG)測定法は、いずれもこうした現象に注目したものですが、ナノメートルの厚さ領域での界面分子膜の配向状の評価を可能とします。MDC-SHG スペクトロスコピーとして完成させることを目指しながら、界面アンカリングの機構の解明、界面分子の挙動による分子シンクロ現象の計測など、そのエレクトロニクス応用への展開を図っています。  もちろん、界面の電子エネルギー構造を評価する手法を確立しておくことも重要であり、ナノ界面で発生する帯電現象に注目しながら、ナノ界面の電子的構造を電気的・光学的に評価する手法の開発に取り組むとともに、これらを基礎として、有機FETや有機単電子トンネル素子の作製と特性評価なども行なっています。また、さらに、有機分子間の双極子エネルギーは、界面膜パターン構造決定(ドメイン構造)などに重要な役割を担っていることを明らかにすることができましたので、これを基礎として、新しい膜パタ―ン描画技術などへの展開もはかりながら、有機分子とエレクトロニクス、フォトニクスとの接点を追求しています.  

1.MDC-SHGスペクトロスコピー技術の開発

 界面に置かれた分子は、方向をそろえて 並び、非対称な構造を持ちます。その結果、 界面膜は、自発的な分極や構造非対称性 に基づく非線形分極を誘発します。  MDC-SHG法は、単分子膜レベルでの こうした分極を検出し,界面の構造を評価 を可能にするもので、研究により棒状の分 子ばかりか、、ニ鎖型やバナナ型分子など の特徴を評価できるようになりました。
(e.g., Physical Review E, 67 041711, (2003))


図1:SHG-MDC システムと MDC-SHG特性

2.ナノ界面の帯電現象の評価およびその電子的構造単電子トンネル素子への応用

 表面電位法を用いて、界面ナノ領域における帯電の様子(空間的およびエネルギー的)を評価する 手法を確立し、ポリイミド、ポリエチレンなどの絶縁性の有機膜やペンタセン、フタロシアニンなどの 有機半導体のナノ界面電子構造を評価できるようになりました。そして、SHGなどの光学的手法により、 ナノ界面の帯電構造が光学的な物性にどのように反映されるかを解明できることを示しました。 さらに、ナノ界面の帯電現象を考慮した有機単電子素子や有機FET特性が評価できるになりました。
( e.g. Nanotechnology and Nano-interface controlled Electronic Devices, North Holland, Elsevier, Chap.3 p.31(2003),J.Chem.Phys.120, 7725 (2004).)


図2:界面の電子的構造と有機分子素子特性

3. ナノ界面のエネルギー構造とパタ―ン構造

Rapini and Papoular (RP) モデルに代わる界面アンカリングエネルギーを表現するための新しい表示式を球面調和関数を用いて定式化することに成功し、これまで特性の評価が困難であった、ツイストネマチック液晶セルなどの特性が評価できるようになりました( e.g. Phys.Rev. E, 62, R1481 (2000), Phys.Rev. E 65, 031709 (2002))。また、均質な表面エネルギー状態の基板面上に形成される膜構造は、円形に加えてトーラスなどのドメイン構造が双極子相互作用の結果として現れることを世界ではじめて示しました(Phys.Rev.Lett. 93, 206101 (2004)。現在、こうした膜構造の可視化を実現するとともに、新しい膜パタ―ン描画技術への展開を図っています。


図3:界面のアンカリングエネルギー構造

光学的手法による有機FETのチャネル電界分布測定

2次の非線形光学効果であるSHG法を用いることで、有機FETのon/off各状態にお ける素子中の電界分布を評価できるようになりました(Appl. Phys. Lett. Vol.89(7) 072113)。現在では、デバイス動作で重要となる、キャリアの注入お よび蓄積、輸送現象を観測する手段として、時間分解SHG法を用いた新規測定手 法の検討を行っています。これらの結果とMaxwell-Wagner効果に基づくデバイ スモデリングにより、有機FETの動作機構を明らかにする研究が進行中です。


図4:FETチャネル部のSHG強度分布測定の様子。


著書

[1] The Physical Properties of Organic Monolayers, World Scientific, Singapore, pp1-200 (2001).
[2] Organic Properties of Organic Monolayer Films in Supuramolecular Photosensitive and Electroactive materials,edited by H.S.Nalwa,Academic Press, Chap.11, pp859-906 (2001).
[3] Nanotechnology and Nano-interface controlled Electronic Devices, North Holland, Elsevier (2003)

関連論文

[1] M.Iwamoto, Z.C.Ou-Yang, "Shape deformation and circle instability in two-dimensional lipid domains by dipolar force: a shape- and size-dependent line tension model," Phys. Rev. Lett., Vol. 93, pp.206101-1-4 (2004).
[2] K.Yoshizaki, T.Manaka, and M. Iwamoto, "Large surface potential of Alq3 film and its decay," J.Appl.Phys., 97, pp.023703-023709 (2005).
[3] M.Iwamoto, T.Manaka, and Z.C.Ou-Yang, "Monolayer Dielectrics and generation of Maxwell-displacement Current and Optical Second harmonics," IEEE Trans. On Dielectrics and Insul., 11, pp.785-796 (2004) (invited paper).

その他の研究業績はこちらをご覧ください。

■最近の研究


光学的手法による有機FETのチャネル電界分布測定
Maxwell-Wagnerモデルによる有機FETの動作解析
生体膜
水面上単分子膜の誘電的性質と幾何学的性質に関する研究
交流電界発光による電荷注入観測と絶縁劣化の評価
表面電位法と光第2次高調波発生法を用いた極性分子で構成される有機分子膜の分極現象の評価
液晶の界面配向
ポリジアセチレンのキラル性発現とその制御