IWAMOTO LABORATORY

■研究紹介



水面上単分子膜の誘電的性質と幾何学的性質に関する研究

水面上単分子膜は、水と空気の界面に有機分子を並べてできる分子一つ分の厚さを持つ膜である。私たちは、水面上単分子膜の配向状態(つまり、有機分子がどの方向を向いて並んでいるか)ということを調べ、水面上単分子膜の物性を配向状態と関連付けて明らかにする研究を行っている。水面上単分子膜は、下図に示したように図の上下方向に対して非対称な構造を形成しているので、様々な分極現象を示す。例えば、電界を加えなくても発生する分極である自発分極や電界の自乗に比例する二次の非線形分極などである。もちろん、電磁気学の授業で習うような電界に比例する線形分極も発生する。単分子膜から発生する線形分極は、通常の物質とは違い、異方性をもつ。つまり、加える電界の方向によって実効的な誘電率の値が変わる。単分子膜から発生するこれらの分極は、単分子膜の配向状態を表すパラメータである"配向オーダーパラメータ"と関連付ける事ができる。私たちは、単分子膜から発生する自発分極、線形分極、二次の非線形分極を測定するために、Maxwell変位電流法、Brewster角反射光測定法、光第二次高調波測定法を組み合わせたシステムを構築して、 単分子膜の配向状態を調べている。

温度や圧力を変えていくと、物質は、固体、液体、気体というように、状態変化を起こす。液体から固体になるときに、液体と固体が混ざった状態が形成される。これを二相共存状態という。単分子膜も温度や圧力を変える事で、相転移を起こし、液相から凝縮相になるときに二相共存領域を経る。液相と凝縮相は、単分子膜の示す状態であるが、ここでは説明を省略する。二相共存領域は、液相状態である部分と凝縮相状態である部分が共存している状態であるが、顕微鏡技術によって、凝縮相の部分(ドメイン)が特徴的な形状を示すことが発見された。私たちは、Brewster角反射光測定法(前に説明した線形分極を測定するための装置)を顕微鏡技術として使った装置である、Brewster角顕微鏡を使ってドメインの形状を観察している。単分子膜から発生する自発分極は、ドメインが特徴的な形状を形成する原因の一つである。凝縮相状態の方が液相状態よりも大きな自発分極が発生している。自発分極の発生によって、単分子膜に静電エネルギーが蓄えられるが、それをできるだけ少なくするためにドメインは特徴的な形をしているのである。 私たちは、それに加えて、面内の配向秩序や柔らかさなどの凝縮相の特徴を加えて、観測されたドメインの形の形成原因を探っている。この分野の研究のためには、電磁気学、量子力学だけでなく、誘電物理、熱力学、統計力学、弾性体力学、光学、流体力学、液晶物理などの素養が要求される。


図1:水面上単分子膜の模式図

図2:Brewster角顕微鏡による水面上キラルドメインの観察例。

関連した研究業績

[1] R.Wagner, T.Yamamoto, T.Manaka, and M.Iwamoto, "Determination of the complete dielectric polarization of Langmuir monolayers," Rev. Sci. Instrum., 76, 083902 (2005).
[2] M.Iwamoto and Z.C.Ou-Yang, " Shape Deformation and Circle Instability in Two-Dimensional Lipid Domains by Dipolar Force: A Shape- and Size-Dependent Line Tension Model," Phys. Rev. Lett. , 93, 206101, (2004).
[3] T.Yamamoto, T.Manaka, and M.Iwamoto, "Electric quadrupole model on the formation of molecular chirality dependent domain shapes of lipid monolayers at the air-water interface," J. Chem. Phys., 126, 125106 (2007).