IWAMOTO LABORATORY

■研究紹介



Maxwell-Wagner効果に基づく有機FETの動作解析

近年、有機材料の柔軟性や軽量性をエレクトロニクスへ応用するために、有機FETの研究が盛んに行われているが、有機FETの性能が大きく向上している一方で、その動作原理には未だ不明確な点も多く、動作特性を解析には無機半導体のモデルに立脚して行うことがしばしば見られる。しかし、そうした手法では説明が困難な実験事実が数多くあることが実状であり、有機材料と無機材料の本質的な違いを踏まえて解析が必要と考えられる。両者の違いとして、チャネル部の電荷蓄積現象に目を向ければ、MOSFETなどの無機半導体を用いたFETのチャネル部の電荷蓄積は、材料内より誘起された内在キャリヤとソースからの注入キャリヤによって熱平衡に達するように起きる。一方、有機FETでは電極からの注入キャリヤによってチャネルが形成されるが、こうしたキャリヤの振る舞いは熱平衡物理によって記述できるかは不明確である。このため、無機半導体で用いていたモデルを有機FETの動作特性解析にそのまま適用することは困難である。そこで、我々は有機FETのチャネル部の電荷蓄積はMaxwell-Wagner(MW)効果に起因するものであると捉えることにした。 MW効果とは、緩和時間の異なる材料界面に電流が流れ込む際には電荷の蓄積が起きるという効果である。より詳しく言えば、材料内を電荷が広がる速さは緩和時間によって律速されるが、それが異なる材料の界面では電荷の広がる速さが違うため電荷の蓄積が起きることになる。このようなMW効果によって有機/ゲート絶縁体界面に蓄積された電荷を輸送するというモデルによりFET特性を解析することをこれまでに提案してきた[1,2]。

ところで、有機FETの実用化に向けては閾値電圧の制御が重要であるが、いまだ有効な手だてが確立されていない。MW効果に注目すれば、有機FETの閾値電圧を制御するということは、有機/ゲート絶縁体界面における注入電荷の蓄積の仕方を変化させるということである。そこで、我々は、ゲート絶縁膜の自発分極がチャネル部の注入電荷の蓄積量に大きく影響することに着目し、強誘電性ゲート絶縁膜を持つペンタセンFETの評価を行っている(試料構造は図1)[3,4]。図2に測定結果の一例を示す。ソースド・レイン間電圧をVds=-5Vで固定した状態でゲート・ソース間電圧Vgsを60Vから-60Vへスイープした後、逆方向に60Vまでスイープしたところ、Idsの値に大きなヒステリシスが観測された。この結果は、自発分極の方向がチャネル部の注入電荷の蓄積量を大きく影響し、結果として電圧のスイープの行きと帰りでチャネル部の伝導特性が大きく変化することを示していると考えられる。


図1:強誘電性ゲート絶縁膜を持つペンタセンFET

図2:強誘電性ゲート絶縁膜を持つペンタセンFETのIds-Vds特性

関連した研究業績

[1] R. Tamura, E. Lim, T. Manaka, M. Iwamoto, "Analysis of pentacene Field Effect Transistor as a Maxwell-Wagner effect element",J. Appl. Phys.,100(2006)114515.
[2] R. Tamura, E. Lim, T. Manaka, M. Iwamoto, "Analysis of Carrier Injection into Pentacene FET using Maxwell-Wagner Model",IEICE Trans. Electron., E89-C(2006)1760.
[3] R. Tamura, E. Lim, T. Manaka, and M. Iwamoto, "Analysis of threshold voltage shift of pentacene field effect transistor based on a Maxwell-Wagner effect", Jpn. J. Appl. Phys. in press (2006).
[4] R. Tamura, E. Lim, S. Yoshita, T. Manaka, and M. Iwamoto, " Analysis of threshold voltage shift of pentacene field effect transistors with ferroelectric gate insulator as Maxwell-Wagner effect", Thin Solid Fims in press (2007).