IWAMOTO LABORATORY

■研究紹介



光学的手法による有機FETのチャネル電界分布測定

従来のシリコンを用いたFETでは、ゲート電圧により半導体内部のキャリアが絶縁体界面に蓄積し、これがチャネルを形成する。一方、有機物FETは内在キャリア濃度が低く、シリコン系FETで用いられているチャネル形成機構をそのまま適用するには無理がある。実際には、有機FETにおいてキャリアが電極から注入され、チャネル形成に寄与することが明らかになっている。しかしながら、有機FETの動作を説明するためにシリコンMOSFETを基礎とするような理論が流用されているのが現実である。そのため我々はこのような背景から、Maxwell-WagnerモデルをベースとするFETの動作機構の解析を提案してきた。 そのため、有機FETに対する測定方法も、有機物の性質を反映したものが望まれる。MOSFETで良く用いられるC-V測定やG-V測定は、簡便な方法ながら、デバイス中のキャリア分布やキャリアの動きを正確に把握することができる。しかしこれは、半導体物理という強力な理論の助けを借りて初めて、簡便且つ有効な測定法となり得ているといえる。 このような状況下、我々は電場誘起の光第2次高調波発生法(EFISHG)を用いてFET内部の電界強度分布測定を試みている。SHG強度は材料中の電界の2乗に比例する。


すなわち、FETチャネル間で微小なスポットからのSHG強度の分布を得ることができれば、上式を用いて電界強度分布を見積もることが可能となる。これが本研究の最も基本的かつ重要な部分である。実際には、顕微光学系を用いてSHGを測定し、図1に示したように、ステージに載せたFETをステージを動かすことでSHGの強度分布を得ている。


図1:FETチャネル部のSHG強度分布測定の様子。

図2に実際のSHG分布測定の結果を示す。ここで用いたサンプルはチャネル長50 m mのものである。それぞれの色のマークは、表1のように各電極に電圧を印加した時の様子である。


図2:FETチャネル部のSHG強度分布の測定結果。
表1:FETの各電極の電圧印加条件。

まず、電極に電圧を印加していない時には観測されなかったSHG信号が、ドレイン電極のみに電圧を印加することにより発生していることがわかる(赤マーク)。この状態はいわゆるoff状態であり、ドレイン側にSHG強度が集中している。Off状態では、キャリアが素子内に注入されておらず、素子中にはラプラス場が形成されていると考えてよい。ドレインーゲート間には非常に強い電界がかかっており、ドレイン電極のエッジ効果によって横方向電界が発生しSHGがアクティブになる。

これが、FETをon状態にすることで劇的に状況がかわる。緑マークがドレイン電圧に加えてゲート電圧も印加したときのSHG強度分布である。ドレイン側に集中していたSHG強度分布が滑らかに緩和されている様子が観測できる。ちなみに外部電圧によるラプラス場を考えると、今度はソース側で電界が集中しても良いはずである。しかしSHGはソース側において全く観測されていない。これは、FETがon状態になることで、キャリアが注入され結果としてFET内部の電界強度が偏歪されたことが原因である。換言すれば、導電チャネルが形成されたことにより、チャネル全体に一様な電界がかかるようになったともいえる。

このようにSHG測定を用いて、FET素子内部の電界強度分布を実際に観測することができた。この測定法は電界だけでなく電荷情報も得ることができると考えている。それは、電荷は電界のソースとなるためである。これを用いれば、FET内部の電荷の動きなども捉えることができ、有機デバイスに対する全く新しい観測手法となる可能性を秘めている。

関連した研究業績

[1] T. Manaka, E. Lim, R. Tamura, and M.Iwamoto, "Modulation in optical second harmonic generation signal from channel of pentacene field effect transistors during device operation," Appl. Phys. Lett. 87, 222107 (2005).
[2] T. Manaka, E. Lim, R. Tamura, D. Yamada, and M.Iwamoto, "Probing of the electric field distribution in organic field effect transistor channel by microscopic second-harmonic generation," Appl. Phys. Lett., 89 (2006) 072113.