IWAMOTO LABORATORY

■研究紹介



ポリジアセチレンのキラル性発現とその制御

2000年に白川英樹先生が、導電性ポリアセチレンに関する研究でノーベル化学賞を受賞したことは記憶に新しいと思います。この受賞により、絶縁体だと考えられていた高分子に、導電性という全く異なった側面があることに気づかされた人も多いと思います。近年では、導電性高分子材料はデバイスへの応用を目的として実際に研究されています。このようなポリアセチレンに関して、最近興味深い性質が報告されました。具体的には、ポリアセチレンをある条件下で重合するとキラル性を有するという、赤木博士(現京都大学)や白川博士らのグループによる報告です。キラル性とは、ある分子が自身の鏡像と重ね合わせることができない性質を指します。有機分子の構造に当てはめると、不斉炭素を持つ、又は鏡像面を持たない場合にキラル性は発現します。キラル性を持つポリアセチレンは、構造内部に螺旋構造を有することが観察されており、医薬・生体分野で盛んに研究されているキラル性が、それを誘起している構造を活かしたデバイス(ナノソレノイド等)への応用が期待されています。


図1:螺旋構造のもつキラル。

キラル性を持つ有機分子を得るために、ラセミ体からの光学分割や不斉合成等が一般的に用いられます。これらの反応系には不斉源となる材料が必要で、前述した螺旋ポリアセチレンの合成も、重合反応を不斉源を持つキラル液晶場中で行うことにより実現されています。しかし、電子デバイスの観点から考えると、不斉触媒のような化学物質は不純物となる可能性があります。そのため本研究室では、デバイスへの応用を観点に入れ、不斉触媒等の材料を用いない、π共役系キラル高分子の作製を検討してきました。

モノマー分子内に疎水基と親水基の両方を持つ両親媒性ジアセチレンは、光に対して非常に敏感に反応し、重合後ポリジアセチレンを形成します。このポリジアセチレンは、導電性や大きな非線形光学効果を有し、デバイス応用に関する研究が盛んな材料です。本研究室ではこのジアセチレンに着目し、光重合を左と右の円偏光下で行い、不斉源を持たないジアセチレンからキラル性を持つポリジアセチレンの合成に、世界で初めて成功しました。現在はデバイスへの応用を視野にいれ、このキラル性を安定に制御する研究を行っています。


図2:円二色性測定によるキラル性の確認。

関連した研究業績

[1] T.Manaka, H.Kon, Y.Ohshima, G.Zou and M.Iwamoto, "Preparation of Chiral Polydiacetylene Film from Achiral Monomers Using Circularly Polarized Light", Chem. Lett., Vol.35, pp.1028-1029 (2006 Sept).