IWAMOTO LABORATORY

■研究紹介



表面電位法と光第2次高調波発生法を用いた
極性分子で構成される有機分子膜の分極現象の評価

有機材料を用いた電子デバイスの特性や機能性を引き出すには、電荷の注入や蓄積といった電気現象をうまく制御する必要があります。そのため、電極/有機膜界面で生じる分極現象を系統的に理解することは、有機エレクトロニクスの分野において重要になります。 一般に有機膜を含むほとんどの絶縁材料は金属などの異種物質と接触させると、界面で電荷移動が生じ、分極することが知られています(図1.(a))。この現象は接触帯電現象として呼ばれます。一方で、非対称性な形を持つ分子(極性分子)は、基底状態で電子密度の偏りが生じため永久双極子モーメントを持ち、それらが秩序を持って配向する場合にも分極が発生します(図1(b))。つまり、極性分子で構成される有機膜では、空間電荷分極と自発分極が重なり合った複雑な分極現象を発生することになります。本研究では永久双極子の配向秩序と電荷移動の関係性を明らかにすることを目的としています。


図1:(左)空間電荷。(右)永久双極子の秩序配向。

有機ELの電子輸送層として使用されるAlq3分子の蒸着膜は、膜作製時にAlq3分子の永久双極子が秩序を持って配向するため、厚さ200nmで10V以上の大きな表面電位を発生し、光などの外部刺激によって減衰することが知られています。そのため、減衰メカニズムを明らかにすることで、永久双極子の配向秩序と電荷移動の関係性を調べることが可能となります。系が永久双極子の配向秩序を持つ場合、光第二次高調波が強く発現します。そのため光第二次高調波発生法(SHG法)と表面電位法を組み合わせると、極性分子で構成される有機膜の分極構造の中から永久双極子の秩序配向の情報のみを選択的に検出することが可能となります。このことを利用して、Alq3蒸着膜で発生する表面電位の熱もしくは光刺激による減衰メカニズムを明らかにしました(図2)。その結果、極性構造をもつ有機分子膜に特徴的な電荷移動の様子を捉えることができました。現在、このような電荷移動の様子を静電エネルギと誘電緩和現象の両方の立場から解析を行っています。


図2:熱刺激による表面電位とSH強度の減衰過程の様子。

関連した研究業績

[1] N. Kajimoto, M. R. Muhamad, S. Abdul-Rahman, T. Manaka, and M. Iwamoto,., "Enhancement of Surface Potential Buildup and Decay of Tris(8-quinolinato)aluminum Film Deposited on Ultraviolet/Ozone-Treated Gold Electrodes," Jpn. J. Appl. Phys., Vol. 44, (2005), p. 1091.
[2] N. Kajimoto, T. Manaka, and M. Iwamoto, Proceedings International Symposium on Super-Functionality Organic Devices. IPAP Conference Series 6 pp. 184-186 (2005).
[3] N. Kajimoto, T. Manaka, and M. Iwamoto, "Decay process of a large surface potential of Alq3 films by heating," J. Appl. Phys., Vol. 100, (2006) p.053707.
[4] N. Kajimoto, T. Manaka, and M. Iwamoto, "Electrostatic energies stored in dipolar films and analysis of decaying process of a large surface potential of Alq3 films," Chem. Phys. Lett., Vol. 430, p. 340 (2006).
[5] N. Kajimoto, T. Manaka, and M. Iwamoto, Japanese Journal of Applied Physics in press.